防護服着用時の暑さ対策! 熱中症リスクと効果的な冷却方法
防護服は密閉性が高く、着ているだけで暑さを感じやすくなります。特に夏場や高温多湿な環境では、熱中症のリスクが高まり、最悪の場合には命に関わる事態に発展するケースもあります。そのため、暑さ対策を適切に行い、労働者が快適に作業できる環境を整えることが大切です。
本記事では、防護服を着用する現場で実践しやすい暑さ対策や熱中症の危険性などを分かりやすく解説します。
なぜ防護服を着ると暑いのか? 熱がこもるメカニズム
防護服は、有害物質や粉じんなどから体を守るために作られた保護具で、密閉性や遮断性の高い素材が使用されています。そのため外気との通気が遮断され、内部にこもった熱や湿気を逃がしにくいのが特徴です。この特徴のため、体内の熱や汗がこもりやすく、着用中に暑さを感じやすくなります。
防護服を着用する環境は、高温多湿で風通しの悪い場合も多いです。そのため、汗をかいても蒸発しにくいため、さらに体温が上昇しやすくなります。
体内に熱が発生すると、気化熱や熱放散と呼ばれる調節機能で熱を逃し、正常な体温に戻します。しかし、通気性の乏しい服を着ていると、これらの体温調節機能が阻害され、体内にこもった熱を十分に逃がせません。
結果として体温が異常に上昇しやすくなり、脱水や血流障害を引き起こし、熱中症を引き起こすリスクが高まります。
防護服着用時の熱中症リスクとその危険性
厚生労働省の調査によると、2023年度に職場で発生した熱中症の死傷者数は合計1,106人です(※1)。うち31名が命を落としており、熱中症は命に関わる深刻な労働災害として認識されています。
業種別の熱中症による死傷者数は、以下の通りです。
- 建設業が209人
- 製造業が231人
- 運送業が146人
防護服を着用する業務が多い建設業では、209人中12人が命を落としています。実際に炎天下の建設現場で朝から作業を続けた作業員が、熱中症を発症して死亡した事例もあります(※2)。
このような背景を踏まえると、防護服を着用して作業する現場では、事前に熱中症のリスクやその危険性を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
※1参考:厚生労働省.「令和5年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」.https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001100761.pdf ,(参照2025-05-16).
※2参考:建設業労働災害防止協会.「災害事例」.”No.4 休憩を取っていたが熱中症を発症”.https://www.kensaibou.or.jp/public_relations/various_canpain/preventing_heat_illness/case/case04.html ,(参照2025-05-16).
すぐできる! 防護服着用時の暑さ対策【基本編】
ここでは、防護服着用時に実践できる基本的な暑さ対策を4つ紹介します。
1.のどが渇いていなくても水分を取る
作業中は、のどが渇いていなくても意識的に水分を取りましょう。
防護服を着用して作業をしていると、大量に汗をかいて体の水分が知らないうちに失われていきます。のどが渇いたと感じるときにはすでに脱水が始まっている可能性があります。そのため、渇きを感じる前に小まめに水分を補給することが重要です。水分不足になると血液の循環が悪くなり、体の熱を十分に放出できません(※)。
体温が急上昇して熱中症を引き起こすリスクがあるため、休憩時間に限らず作業中も小まめに水分を取り、体温の上昇を防ぎましょう。
※参考:環境省.「熱中症環境保健マニュアル2022」.”1.熱中症とは何か”.https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_full.pdf ,(参照2022-03).
2.水分補給と一緒に塩分を取る
水分補給時に塩分を取るのも効果的です。汗をかくと、水分と同時に塩分も体外へ放出されます。水分だけを補給しても、塩分が不足している状態では血液中の濃度バランスが崩れ、かえって熱中症を引き起こす恐れがあります。
一度に摂取するのではなく、コップ1杯のスポーツ飲料や経口補水液を30分ごとに飲むと良いでしょう(※)。スポーツ飲料は、食塩相当量が100ml当たり0.1~0.2g含まれている製品が推奨されています(※)。飲料の他、塩分入りタブレットや塩こんぶ、梅干しなどもおすすめです。
※参考:厚生労働省.「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」.”水分補給の注意点””スポーツ飲料・経口補水液の塩分について”.https://neccyusho.mhlw.go.jp/download/assets/pdf/guide_pdf_all.pdf ,(参照2025-05-16).
3.休憩時間に防護服を脱ぐ
休憩時間は、防護服を脱いで体内にこもった熱を外に逃がしましょう。密閉性の高い化学防護服は汗がほとんど蒸発せず、体温が次第に上昇してしまいます(※)。
特に梅雨明けで気温が高くなるとき、長期休暇明けで久しぶりに作業を再開する際は、体が暑さに慣れていないケースが多いです。普段より休憩の頻度を増やし、防護服を定期的に脱ぐよう心掛けましょう。
※参考:環境省熱中症予防情報サイト.「5.労働環境での注意事項」.”②作業環境や作業の注意事項”.https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_3-5.pdf ,(参照2025-05-16).
4.首・手の平・足裏を冷やして体温を下げる
休憩中に、首や手の平、足裏を冷やして体温を下げる方法もあります。首には太い血管である頸動脈が通っています。この血管を皮膚の上から冷やすことで、冷えた血液が体に循環し始め、体温が徐々に下がる仕組みです。
手の平や足裏には、動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)と呼ばれる深部体温の調整に関わる特殊な血管構造があります。動静脈吻合が冷えると、深部体温を効率的に下げられるため、深部体温の上昇を抑えやすくなります。
作業中に使用できるネッククーラーを活用するのも有効です。実際に建設現場の中には、足を水に浸して冷やせる足水専用ハウスを設置している例も見られます(※)。
※参考:厚生労働省.「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」.”6.「足水」でヒンヤリ”.https://neccyusho.mhlw.go.jp/download/assets/pdf/guide_pdf_all.pdf ,(参照2025-05-16).
効果的な冷却グッズの活用|電動ファン付き作業服・冷却ベストなど
冷却グッズを使用するのも、防護服の暑さ対策の一つです。具体的な冷却グッズには、以下のものが挙げられます。
| 冷却グッズ | 機能 |
| 電動ファン付き作業服 | 内蔵のファンで外気を取り込み、内部に風を送る効率的に汗を蒸発させ、体温を下げるバッテリーで稼働するため、エアコンがない場所でも使用できる |
| 冷却ベスト | 両脇や背中部分のポケットに保冷剤を入れられるベスト防護服の下に着用する |
| インナーキャップ | ヘルメットの下に着用するキャップ冷却タイプ・除菌・抗菌タイプなど種類が豊富にある |
| 吸汗速乾インナー | 汗を素早く吸収してくれるインナー速乾性があるため、生地が肌にまとわりつく不快感を軽減できる |
| アームクーラー | 二の腕から手首を覆う冷却グッズ防護服着用前に体温を下げる目的で使用する |
| ネッククーラー | 首を冷やして体温上昇を防ぐもの水にぬらして使用するタイプや冷凍して使用するタイプなど種類が豊富にある |
特に空調服や冷却ベストは、防護服着用時の暑さ対策として効果的な冷却グッズです。高温多湿な環境下での負担を軽減し、熱中症リスクを下げるためにも、現場に合ったものを取り入れてみましょう。
作業環境の改善|送風・休憩スペースの確保
密閉性が高い防護服は熱がこもりやすく、体温調整が難しくなります。熱中症で労働災害を起こす危険性が高まるため、必要に応じて作業環境を見直しましょう。
以下で、実際に取り入れやすい作業環境の改善策を紹介します。
まずは暑さ指数(WBGT)を確認する
作業環境を見直す上で確認すべきなのは、暑さ指数(WBGT)です。暑さ指数とは、作業場の気温・湿度・輻射熱・風などを総合的に評価した、熱中症の発症リスクを把握するために用いられる基準です(※1)。防護服を着用して作業する場合は、WBGT測定器で表示された値に加えて、作業ごとの身体作業強度と衣服による補正値を加算して計算する必要があります。
作業環境の暑さ指数を確認する手順は、以下の通りです(※1)。
ステップ1 「作業ごとの身体作業強度+衣服による補正値」で作業に対応した暑さ指数の基準値を求める
ステップ2 作業場の暑さ指数をWBGT測定器で測る(できれば直射日光下などが望ましい)
ステップ3 ステップ2で計測した作業場の暑さ指数が、ステップ1で求めた基準値を超えていないか確認する
作業ごとの身体作業強度と衣服による補正値は、厚生労働省の「暑さ指数について」で確認できます(※1)。防護服を着ている場合、通気性に乏しいものも多いため、実際の暑さ指数が測定器の表示よりも高くなると考える必要があります。そのため、衣服による補正値を加算することが一般的です。
ステップ2で求めた暑さ指数が、ステップ1で求めた基準値を超えていた場合、作業時間の短縮や休憩スペースの見直しなど、適切な作業環境の見直しを行う必要があります。
なお、WBGT測定器がない場合は、環境省の「熱中症予防情報サイト」で該当地域の暑さ指数を閲覧できます(※2)。
※1参考:厚生労働省.「暑さ指数について」.https://neccyusho.mhlw.go.jp/heat_index/ ,(参照2025-05-16).
※2参考:環境省.「熱中症予防情報サイト」.https://www.wbgt.env.go.jp/ ,(参照2025-05-16).
暑さ指数の基準値を超える作業場の対策
暑さ指数の基準値を超える、もしくは超えそうな作業場で業務を行う場合、送風機や冷房設備を設置しましょう(※)。送風機は、空気を効率的に循環させる他、放熱や換気などの用途で使用される設備です。空気の流れを生み出すことで、汗の蒸発を促進し、作業者の体温上昇を抑える効果があります。また密閉された屋内空間では、冷房機器との併用も有効です。
送風機や冷房設備を設置することで快適な作業環境が整い、熱中症になるリスクを軽減できます。すでに設置している場合は、作業環境に適した機能が備わっているか確認しましょう。
※参考:厚生労働省.「令和7年「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」実施要綱」.”ウ 設備対策の検討”.https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001478633.pdf ,(参照2025-02-28).
作業場近くに休憩スペースを設置する
熱中症リスクを下げるには、作業場近くに休憩スペースを設置することが重要です。
休憩スペースは、狭いスペースではなく、作業者が横になって休める広さを確保しましょう(※)。
休憩スペースには、以下のような体を冷やす物品が常備されているとさらに効果的です(※)。
- 氷
- 凍らせた飲料
- 冷えたおしぼり
- 水風呂
水分や塩分の補給がすぐできるよう、ウォーターサーバーや自販機、塩飴などを設置するのも良い対策といえます(※)。
※参考:厚生労働省.「令和7年「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」実施要綱」.”エ 休憩場所の確保の検討””(イ)休憩場所の整備等”.https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001478633.pdf ,(参照2025-02-28).
作業者の健康管理|水分補給・休憩の重要性
作業環境だけでなく、作業者の健康管理も徹底しましょう。特に重要なのは、水分補給と休憩の取り方です。
以下では、適切な作業者の健康管理の方法やポイントを紹介します。
定期的に水分を補給する
熱中症を予防する上で、作業中のどが渇いていなくても定期的な水分は欠かせません(※1)。のどが渇いたと感じたときには、すでに脱水が進んでいる可能性があるからです。
現場責任者は、作業員が水分や塩分を適切に摂取しているかを確認できるよう、チェック表を設けましょう。作業中に巡視したり、水分を常備するように徹底したりするのも大切なポイントです。
作業に集中していると水分補給を忘れてしまいそうな場合は、一定の間隔でタイマーを設定するのも効果的です(※2)。
※1参考:厚生労働省.「令和7年「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」実施要綱」.”(ウ)水分及び塩分の摂取”.https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001478633.pdf ,(参照2025-02-28).
※2参考:厚生労働省.「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」.”水分補給のタイミング”.https://neccyusho.mhlw.go.jp/download/assets/pdf/guide_pdf_all.pdf ,(参照2025-05-16).
暑さ指数に応じた休憩時間を確保する
暑さ指数(WBGT)の値が基準を超える場合は、作業を続けることで熱中症のリスクが大幅に高まります。そのため、休憩時間は暑さ指数(WBGT)を基準に設定しましょう。WBGT基準値に応じた1時間当たりの休憩時間の目安は、以下の通りです(※)。
- 約1度超えている:15分以上
- 約2度超えている:30分以上
- 約3度超えている:45分以上
- それ以上の超過:作業を中止した方が良い
このように暑さ指数が基準値より高い場合は、1時間ごとに15~45分以上の休憩を設ける、もしくは作業を中止するなど、リスクに応じた柔軟な対応が求められます。現場の安全管理者は、WBGT測定結果に基づいて休憩計画を立て、確実に実行されるよう作業者へ周知徹底しましょう。
※参考:厚生労働省.「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」.”3.休憩時間について”.https://neccyusho.mhlw.go.jp/download/assets/pdf/guide_pdf_all.pdf ,(参照2025-05-16).
通気性の良い防護服の選び方と比較
防護服による暑さを軽減するには、通気性に優れたタイプを選ぶのが効果的です。ここでは、通気性の良い防護服の選び方と素材別の特徴を紹介します。
【選び方】通気性と防護性能のバランスを確認する
大前提として、防護服は有害物質や外的要因から皮膚や体を守るために着用するものです。通気性を重視するあまり防護性能が十分でないものを選ぶと、労働災害や健康被害につながる恐れがあります。
防護服を選ぶ際は、以下の点を確認した上で通気性と防護性能のバランスを見極めましょう。
- 有害物質が服の内側に浸入しない構造になっているか
- 保護が必要な部位をしっかり覆えるか
- 物理的な衝撃に耐えられる強度があるか
これらの条件をもとに、防護性能を犠牲にせず、かつ作業者の快適性を確保するには、「リスクに見合った防護性能」と「通気性のバランス」を取ることが重要です。
【素材別】通気性の良い防護服の特徴
防護服の通気性は、使われている素材によって大きく異なります。防護服に使用される代表的な素材は、以下の通りです。
- 単層不織布
- SMS不織布
- 多孔質フィルムラミネート(SF・SFS)
単層不織布
単層不織布は、一層のポリプロピレン製のスパンボンド不織布で作られたタイプです。単層のため、通気性が高く熱がこもりにくい特長を持っています。
ただし、防護性能はやや劣っているため、有害物質の飛散リスクが高い現場には向いていない可能性があります。軽作業や清掃作業などの低リスクな現場で暑さを抑えたい場合におすすめのタイプです。
SMS不織布
SMS不織布は、スパンボンド・メルトブロー・スパンボンドの3層でできた素材です。通気性と一定の防護性能のバランスが優れており、粉じんが発生する現場や飛沫作業などでよく使用されています。摩擦にも強いため、コストを抑えながら一定の保護が必要な場面に向いています。さらに肌触りも良く、着用時のストレスを感じにくいのが特長です。
多孔質フィルムラミネート(SF・SFS)
多孔質フィルムラミネート(SF・SFS)は、通気性よりも防護性能を重視したい場面に向いているタイプです。SFは、ポリプロピレン製のスパンボンドに細かい穴の開いたフィルムを重ねています。SFSは、スパンボンドをもう一層追加した3層構造となっており、防水・防護性能に優れています。
防護性能が高い分、通気性は低いため、高温多湿などの厳しい環境で使用する際は、冷却グッズと併用して使用すると良いでしょう。
多角的な対策で防護服着用時の熱中症を防ごう
防護服は有害物質や飛沫から体を守るために欠かせない保護具です。しかし、その高い密閉性・防護性ゆえに、着用時に「暑い」と感じやすい特徴があります。
熱中症による死傷者数は毎年一定数報告されており、建設業や製造業などの防護服を着用する業界では特にリスクが高いとされています。
こうしたリスクを回避するには、水分や塩分の摂取、休憩頻度の見直しなどの基礎的な対策はもちろん、暑さ指数に応じた作業環境の改善、通気性に配慮した防護服の選定も重要な対策です。
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