防護服の耐用年数はどれくらい? 保管方法・交換時期の目安を解説
体に悪影響を及ぼす可能性のある化学物質を取り扱う現場や、粉じんやガスなどが発生する作業環境では、防護服の着用が不可欠です。しかし「この防護服はいつまで使用できるのだろう」「未使用のまま保管していれば、期限を過ぎても使用できるのだろうか」と疑問に感じたことはありませんか。
結論、防護服の耐用年数は法令で定められていません。そのため、使用期限や保管期限はメーカーが推奨する目安を把握し、保管状況と併せて管理する必要があります。
本記事では、防護服が劣化する要因や未使用時の保管期間の目安、交換時期を判断するポイントなどを解説します。
防護服に「耐用年数」の明確な定義はある?
防護服の耐用年数に法令上の明確な定義はありません。
防護服の使用可能な期間は、保管場所の環境や点検の頻度、メーカーなどによって異なります。そのため、一概に「〇年ごとに交換する」「〇回使用したら交換する」といったルールは設けられていません。
例えば使い捨ての防護服であれば、1回限りの使用を前提とされているため、その都度新しいものに交換しなければなりません。一方、適切な検査のもとで繰り返し使用できるタイプなら、必要な点検をしていれば、一定期間の使用が可能とされています。
実際に、適切な管理・検査を行うのであれば5年以内に使用した方が良いと推奨しているメーカーもあります。しかし、たとえ未使用であっても、実際の保管環境が悪ければ、劣化が進行するスピードは速いです。
また耐用年数は、防護服を使用する作業内容によっても左右されます。例えば、溶接や有害物質を扱う業務など、常に危険と隣り合わせになる場合は、防護服にかかる負担が大きくなります。一方で外的要因の少ない作業であれば、同じ防護服でも比較的長く使用可能です。
メーカー推奨の使用期限・保管期限を確認する重要性
防護服は耐用年数が明確に定められていません。しかし多くのメーカーは、取扱説明書などで使用期限や保管期限の目安を記載しており、労働者の安全と健康を確保するために確認する必要があります。
そもそも防護服とは、化学物質や粉じん、ガスなどから体を保護するために使用するものです。労働者の労働災害や健康被害を防止する目的で定められた労働安全衛生規則第593~595条では、危険が伴う作業を行う際に適切な保護具を装着すべきと定められています(※1)。
2024年4月には、健康被害を及ぼす恐れのある物質を扱う際の保護具着用が「努力義務」から「義務」へと強化されました。義務づけられたのは、化学物質が原因の労働災害(休業4日以上)が年間400件程度発生していたためです(※2)。
こうした法改正を受け、事業者は労働者に適切な保護具を着用させる他、その性能を維持するために事前に使用期限・保管期限を確認する必要があります。使用期限を過ぎた防護服は、見た目に異常がなくても、素材の劣化や接合部の破損などによって本来の防護性能を発揮できず、労働災害のリスクを高める原因になりかねません。
実際に、銅メッキ槽の入れ替え工事で、防護服の破損に気付かず作業を続けた結果、シアン化合物による皮膚障害を受けた事例があります(※3)。このような事例からも分かるように、防護服は着ているだけで安全を保障するものではありません。使用前の点検を怠らず、メーカーが提示する使用期限・保管期限を守った適切な管理が不可欠です。
※1参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生規則」.”第五百九十三条””第五百九十四条””第五百九十五条”.https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032/20240401_504M60000100091 ,(参照2025-05-15).
※2参考:厚生労働省.「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル 第2版」.”はじめに”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001393159.pdf ,(参照2025-03).
※3参考:厚生労働省 職場のあんぜんサイト.「労働災害事例」.”銅メッキ槽の入れ替え工事でシアン化合物による皮膚障害を受ける”.https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_FND.aspx ,(参照2025-05-15).
防護服の性能が劣化する要因|保管環境・経年変化
防護服が劣化する原因の一つとして挙げられるのは、不適切な保管環境です。防護服の素材は、外部からの影響に比較的敏感なため、保存状態が悪ければ未使用であっても性能が低下する恐れがあります。
実際にメーカーが発行する取扱説明書には、以下のような保管上の注意点を記載しているケースが多いです。
- 紫外線が当たらない場所で保管すること
- 直射日光や風雨を避けられる場所で保管すること
- 高温多湿にならない場所で保管すること
- つぶれや穴開きなど、物理的な損傷が起きない場所で保管すること
紫外線や直射日光、風雨が当たる場所で保管すると、防護服が劣化して有害物質が体に付着する可能性があります。環境だけでなく、物理的な損傷にも注意が必要です。たとえわずかな破損でも、そこから有害物質が侵入すれば、健康被害が発生するリスクがあります。
経年変化も劣化の原因の一つです。適切に保管していても、メーカーが推奨する使用・保管期限を過ぎれば、素材の構造が徐々に変化し、本来の機能を果たせなくなる可能性があります。
防護服は「目立った傷が見られないからまだ使用できる」ではなく、使用期限や保管期限を遵守することが、安全を確保する上で欠かせません。期限を過ぎたものは新しい製品と交換することが大切です。
未開封・未使用の場合の保管期間の目安
未開封・未使用の防護服であっても、保管期間には限度があります。一般的な防護服の保管期間は、メーカーにもよるものの、3年程度が目安です。ただし、素材や構造によって耐久性に差があるため、中には10年としているメーカーも存在します。
未開封であっても、長期間の保管で小さな亀裂が生じている場合があります。特に縫い目やファスナー周り、ゴム部分は劣化しやすいため、使用前に製品を広げて入念に確認しましょう。
このように保管期間は一律ではなく、防護服の種類・用途・製造方法・保管環境など、さまざまな条件によって異なります。数年前に購入した防護服で、保管期限を過ぎている可能性がある場合は、取扱説明書で使用の可否を判断してください。明確な情報が見つからない場合や判断に迷う場合は、メーカーや販売業者に問い合わせると良いでしょう。安全のためには、「未使用=安全」ではないという前提での判断が必要です。
使用済み防護服の取り扱いと交換時期の判断基準
安全確保のために防護服を着用しなければならないと分かっていても、使用後の処分方法や交換時期の目安を把握している方は少ないのではないでしょうか。
防護服の処理を誤ると、使用者自身だけでなく、周囲の環境や他の作業者にまで健康被害を及ぼす恐れがあります。防護服には、有害な化学物質や病原体などが付着している可能性があるため、適切な処分が必要です。
防護服には、使い捨てタイプと繰り返し使用できるタイプに分かれます。いずれも使い終えた後の取り扱いや処分方法を間違えると、健康被害につながるリスクがあります。
以下で、使用済みの防護服をどう処分するのか、どのような症状が現れたら交換すべきなのか理解しましょう。
使用済み防護服の取り扱い・処分方法
使用済みの防護服を再利用する場合は、適切な方法で洗浄し、直射日光や紫外線、風雨が当たらない場所で保管する必要があります(※1)。高温多湿な環境や物理的に損傷するリスクが高い場所での保管も避けましょう。
特に化学防護服は、正しい方法で除染する必要があります(※1)。除染や洗浄作業が不十分だと、残留した薬品が労働者の皮膚に付着する恐れがあります。
使い捨てタイプや除染によって防護性能が低下した防護服は再使用せず、専用の容器や袋に入れ、化学物質が漏れないようにしっかり密閉しましょう(※1)。防護服を含む保護具には有害物質が付着している可能性があるため、一般ゴミと同じように廃棄できません。産業廃棄物に分類され、中でも爆発性・毒性・感染性がある廃棄物は特別管理産業廃棄物に該当します。事業者または委託会社が処分しなければなりません(※2)。
実際に、廃液にシアン化合物と呼ばれる有害物質が含まれていたことで、毒性ガスが発生した事例もあります(※3)。防護服の不適切な処分による事例ではありませんが、有害物質を含む廃棄物の取り扱いを誤ると、健康被害につながるリスクがあると分かります。
なお、これらの廃棄物は処理方法が法令で厳格に定められており、誤った方法で処分すると法的責任を問われる可能性があります(※2)。使用済みの防護服を処分する際は、自治体や国のルールを確認した上で廃棄しましょう。
※1参考:厚生労働省.「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル 第2版」.”第1項 保管時の留意点”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001393159.pdf ,(参照2025-03).
※2参考:産業廃棄物処理事業振興財団.「2. 廃棄物処理法 2-1 廃棄物の区分と種類
」.”2-1廃棄物の区分と種類””2-3罰則”.https://www.sanpainet.or.jp/service/doc/s06_6_2.pdf ,(参照2025-05-15).
※3参考:環境省.「事故事例からみた廃棄物を適正処理するために必要な措置」.”【事例4】”.https://www.env.go.jp/content/900534405.pdf ,(参照2025-05-15).
防護服の交換時期の判断基準
防護服の交換時期は、使用回数や保管環境、劣化具合などの複数の要素を総合的に見て判断する必要があります。具体的な耐用年数が法令で定められていないため、以下のケースに該当する場合は、安全確保のためにも交換することをおすすめします(※)。
- 摩擦・傷・破れが発生している
- 適切な方法で除染したものの防護性能が低下している
- 一定回数の除染・洗浄を繰り返した
- メーカーが推奨する使用回数や保管期限を超えている
- 着脱がスムーズにできない(ファスナー部分が引っかかる・面ファスナーが外れる)
- 十分に密閉できない
- 内部の換気システムに異常が見られる
特に、密閉性や防護性能に関わる部位の異常は、使用中に重大なリスクを引き起こす可能性があります。取扱説明書に対応策が記載されていることもありますが、対処しても改善されない場合は、新しい防護服に交換しましょう。
防護服が摩擦や傷、破れなどの損傷や除染による防護性能低下、使用・保管期限切れに該当する場合、再使用は避け、速やかに交換することが、労働災害を防ぐ最善策です。
※参考:厚生労働省.「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル 第2版」.”第1項 保管時の留意点”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001393159.pdf ,(参照2025-05-15).
防護服を長持ちさせるための適切な保管方法
防護服を長持ちさせるには、適切な保管方法で管理する必要があります。正しい保管を行えば、未使用時の劣化を最小限に抑え、長く安全に使用することが可能です。保管場所は、紫外線や直射日光、風雨が当たらない風通しの良い場所にしましょう(※)。衝撃が加わって傷や破れが生じる恐れがある場所も避けてください。
防護服の保管方法は、主に以下の4通りです。
- 水平に寝かせて保管する
- ハンガーにかけて保管する
- 折り畳んで専用の収納ボックスや棚に保管する
- 専用の保管用バッグに保存する
水平に寝かせて保管する場合、防護服同士がこすれ合って摩耗しないように注意しましょう。化学防護服を長持ちさせるなら、専用の保管用バッグに収納するのがおすすめです。保管用バッグは、購入時に付属される場合があります。
X線防護服は折り畳んで保管するとシワができ、そこから亀裂が生じる可能性があります。常にハンガーにかけて保管することで、防護性能の低下防止が可能です。
メーカーによって推奨の保管方法が異なります。必ず取扱説明書等を確認し、その製品に適した管理を行いましょう。
※参考:厚生労働省.「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル 第2版」.”第1項 保管時の留意点”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001393159.pdf ,(2025-03).
防護服の定期的な点検と管理体制の構築
防護服の性能を維持し、労働者の安全を確保するには、日常的な定期点検と管理体制の構築が欠かせません。
労働安全衛生規則第596条では、事業者は同規則の第593~595条に規定する保護具を常に機能が発揮できる状態に保ち、かつ清潔に管理しなければならないと記載されています(※)。第593~595条で保護具の着用が求められる作業は多岐にわたりますが、代表的なものとしては以下のケースがあります。
- ガス・蒸気・粉じんなどが発生する作業
- 皮膚や眼に健康被害を及ぼす恐れがある物質を取り扱う作業
- 騒音によって聴覚に悪影響を及ぼす可能性がある作業
これらの作業は常に危険が伴うため、防護服を含む全ての保護具を適切に点検・管理しなければなりません。
※参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生規則」.”第十二条第六項””第五百九十三条””第五百九十四条””第五百九十五条””第五百九十六条”.https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 ,(参照2025-05-15).
使用前の点検手順
防護服は使用前に必ず目視点検を行い、異常がないことを確認しましょう。労働者の命を守るために徹底的に行う必要があります。点検手順は、以下の通りです。
- 防護服を清潔で平らな場所に広げる
- 懐中電灯を使って切れ目や傷、穴などの損傷がないか確認する
- ファスナーフラップの剥離紙に異常が見られないか確認する
- ファスナーがスムーズに開閉できるか確認する
- 縫合部がしっかり閉じているか確認する
上記の点検で異常が見られた場合は、労働災害や健康被害につながる可能性があるため使用を控えましょう。点検方法はメーカーによって異なります。取扱説明書や仕様書を確認し、指定の方法に従って点検しましょう。
点検・管理体制の構築と役割分担
化学物質を扱う作業場などでは、リスクアセスメントにより保護具の着用が必要と判断された場合、保護具着用管理責任者を選任しなければなりません(※)。保護具着用管理責任者とは、防護服などの保護具を適切に選定・管理したり、正しい使用方法を労働者に指導したりする責任者のことです。使用前の点検の他、防護服に損傷や劣化が生じていないかを定期的に確認する役割を担います。
事業者は、保護具着用管理責任者と連携しながら、防護服の扱い方や使用方法を労働者に周知させ、より安全で快適な作業環境を整える必要があります。メーカーの仕様書や取扱説明書をもとに、製品ごとの点検基準を明文化し、作業マニュアル化するのも効果的です。
適切な管理と交換で防護服の性能を維持しよう
防護服は法的な耐用年数が定められていません。そのため、安全に使用し続けるには、適切な場所・方法で管理する必要があります。メーカー推奨の使用期限や保管期限を確認し、素材の損傷や機能低下が見られる場合は、速やかに交換しましょう。
防護服は、労働者の安全と健康を守るために不可欠なものです。性能が十分に発揮される状態で使い続けられるよう、管理体制を整えていきましょう。
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