【JIS準拠】化学防護服の防護レベルとは? 種類・基準・選び方を解説
化学防護服の防護性能が作業内容に適していない場合、作業者が有害物質にばく露するリスクが高まります。適切な防護服を選ぶには、防護レベルやJISに準拠したタイプを把握することが大切です。
本記事では、防護レベルの意味やJISに準拠した製品のタイプ、選定時のポイントを詳しく解説します。
防護服の「レベル」とは何を意味する? 基本的な考え方
防護服のレベルとは、有害物質に対してどの程度の防護措置を講じているかを示す考え方です。レベルA~Dの4段階に分けられており、それぞれ必要な装備や防護措置が異なります。
よく似ている言葉で「防護服のタイプ」がありますが、こちらは防護服そのものの性能や構造を分類したものです。防護服のタイプは「JIS T 8115」と呼ばれる国内規格に基づいて、タイプ1〜タイプ6に分けられています。
つまり、レベルは作業に対する防護措置の高さを示し、タイプは防護服そのものがどのような構造・用途なのかを示しています。いずれも、有害物質などによる労働災害や健康被害を防ぐための防護措置や防護服の種類を区分しているものです。
防護措置は、以下のレベルA~Dの4つに応じて実施します(※)。
| レベル | 防護措置 | 着用する防護服の種類の例 |
| A | 手・足・頭を含む全身を防護する外部の有害物質が入らないように内部を密閉しつつ、自給式空気呼吸器で呼吸できるようにする | 自給式空気呼吸器内装形気密服自給式空気呼吸器外装形気密服 |
| B | 液体の化学物質から体を防護する自給式空気呼吸器または酸素呼吸器にて呼吸できるようにする | 液体防護用密閉服 |
| C | 空気中の粉じんやミスト状の液体化学物質から体を保護する自給式空気呼吸器や酸素呼吸器、もしくは防毒マスクで呼吸できるようにする | 化学防護服(浮遊固体粉じんおよびミスト防護用密閉服) |
| D | 化学薬剤や生物剤を防護できる化学防護服を着ておらず、安全な区域で消防活動を実施する際の必要最低限の措置 | 防火衣活動服感染防止衣 など |
上表のように、レベルAに近づくほど防護体制が強化される仕組みです。防護体制を整える際は、上記のレベルに沿って必要な防護服や保護具を検討しましょう。
※参考:総務省消防庁.「化学災害又は生物災害時における消防機関が行う活動マニュアル【本編】」.”第2 防護措置の区分”https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-138/04/kyuujo2.pdf ,(参照2025-05-17).
JIS T 8115に基づく化学防護服のタイプ(レベル)分類
JIS T 8115とは、国が定めた化学防護服の規格です。そもそもJISとは、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)を略した言葉です。製品の性能や品質、安全性などを全国で一貫して保証するために設けられています。
JIS T 8115に準拠した化学防護服は、タイプ1~6に分けられます(※)。
| タイプ | 着用する防護服の種類(全身) |
| タイプ1 | 気密服 タイプ1a:自給式呼吸器内装形気密服タイプ1b:自給式呼吸器外装形気密服タイプ1c:送気形気密服 |
| タイプ2 | 陽圧服 |
| タイプ3 | 液体防護用密閉服 |
| タイプ4 | スプレー防護用密閉服 |
| タイプ5 | 浮遊固体粉じん防護用密閉服 |
| タイプ6 | ミスト防護用密閉服 |
化学防護服を着用する現場では、JIS T 8115に準拠した製品を使用するのが基本とされています。
※参考:公益社団法人日本保安用品協会.「化学防護服」.”3.化学防護服の性能、特徴及び使用上の留意点”.https://www.jsaa.or.jp/pdf/H27_08_24kagakubougohuku.pdf ,(参照2025-05-17).
【タイプ別】防護服の性能要件と適した作業環境
前述の通り、JIS T 8115準拠の化学防護服は、タイプ1~6に分かれています。ここでは、各タイプの性能と適している作業環境を解説します。総務省消防庁の資料などを基に解説しますので、チェックしておきましょう(※)。
※参考:総務省消防庁.「資料3-2化学防護服の規格」.https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-138/02/shiryou3-2.pdf ,(参照2025-05-17).
タイプ1
タイプ1は、気密性の高い完全密閉型の化学防護服です。手・足・頭部を含む全身を全て覆い、外部から有害物質が入り込まない構造になっています。
完全密閉型で空気の通り道がないため、自給式空気呼吸器を装着して酸素を供給する必要があります。主に、有害な蒸気やガスが発生する環境で作業する場合に着用しましょう。
タイプ2
タイプ2は、手・足・頭部を含めた全身を保護する化学防護服です。JIS T 8115の中では、陽圧服に分類されています。外部から空気を送り込むことで内部の圧力を高く保ち、有害物質が侵入しにくくしているのが特徴です。
タイプ1と同様に、有害な蒸気やガスが発生する作業環境で使用します。
タイプ3
タイプ3の液体防護用密閉服は、液体の化学物質から体を守るための防護服です。上着とズボンの間や防護服と手袋の間、靴との接続部分など、液体が入り込みやすい箇所をしっかりと密閉しています。
蒸気やガスが発生する環境ではなく、液体の化学薬品やバイオハザード(感染性物質)などが飛散する作業環境で使用します。
タイプ4
タイプ4のスプレー防護用密閉服は、スプレー状に噴霧された液体物質から全身を守るための防護服です。タイプ3と同様に密閉服に分類されており、接合部から液体が浸入しないように密閉された構造になっています。
感染症対策やアスベスト除去作業、原子力施設での作業など、液体が空中に広がる作業環境で使用します。
タイプ5
浮遊固体粉じん防護用密閉服は、空気中に舞う有害な粉じんから全身を保護するタイプです。JIS T 8115では密閉服に分類されており、服の隙間から液体が入り込まないように作られています。
主にアスベスト除去作業や塗装作業、土木・下水道作業、畜産農場作業などで使用します。
タイプ6
タイプ6は、ミスト防護用密閉服に分類される防護服です。ミスト状の液体化学物質から体を保護するために装着します。
タイプ3~5と同様に密閉服に該当し、隙間から物質が侵入しない構造が大きな特徴です。粉じん作業や油・グリスを用いた機械メンテナンス作業、アスベスト除去作業などで使用されます。
作業内容に応じた適切な防護服レベルの選び方
作業者の安全と健康を確保するには、事前に適切な防護服レベルの選び方を知る必要があります。
公益社団法人日本保安用品協会では、防護服を適切に選定するための手順として、以下の流れを推奨しています(※1)。
- 作業内容を明確にする
- ばく露する危険有害因子をリストアップする
- 防護レベルと防護範囲を決める
- 防護する体の部位を明確にする
- 製品情報を調べて候補を絞る
- 試着・使用確認を行う
まずは、防護服を着用する作業の内容を具体的に把握します。次に、その作業中にどのような危険有害因子があるかをリストアップしましょう。このとき、リストアップした危険有害因子にさらされた場合、どれほどのリスクがあるのか評価します。作業時間やばく露の量、気温や湿度などを考慮し、必要な防護レベルを検討しましょう。
防護レベルや防護範囲が決定したら、その条件を満たす防護服を探しましょう。メーカーのカタログや製品ページを参考にしながら、必要な性能を備えた製品の候補を絞り込みます。
最後に試着で着脱や作業のしやすさ、動きやすさなどを確認し、現場に適したものを選定しましょう。
詳しい選定方法やフローチャートは、厚生労働省の「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル」でも確認できます(※2)。
※1 参考:公益社団法人日本保安用品協会.「化学防護服」.”2.作業内容に応じた防護服の選択方法”.https://www.jsaa.or.jp/pdf/H27_08_24kagakubougohuku.pdf ,(参照2025-05-17).
※2 参考:厚生労働省.「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル 第2版」.”第3節 化学防護服の選定方法”https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001393159.pdf ,(参照2025-05-17).
防護レベル以外の選定ポイント|素材・形状・快適性
防護レベルやJIS T 8115への適合は重視すべきポイントですが、素材や形状、快適性も考慮して選ぶ必要があります。
特に長時間にわたる作業や、高温多湿な環境での使用が想定される場合は、防護レベル以外の項目を考慮しなければ、作業効率の低下や体調不良を引き起こす可能性があります。どのような点を確認すべきなのか、以下で理解しましょう。
素材
防護レベルが高い防護服は、気密性が高く通気性が低いため、内部に熱がこもりやすい傾向があります。安全確保のためにも、通気性に優れた素材でできた製品の導入を検討しましょう。
通気性に優れた代表的な防護服の素材は、以下の通りです。
| 素材 | 概要 |
| 単層不織布 | 一層のスパンボンドで構成されたタイプ軽量で通気性に優れている防護性能はやや劣るため、低リスクな軽作業に適している |
| SMS不織布 | スパンボンドとメルトブローンの3層構造でできている手触りが良く、耐久性・通気性に優れているコストと防護性能のバランスが良い |
| 高密度ポリエスチレン繊維不織布 | 高密度ポリエチレン製の特殊な不織布通気性に優れていながら、撥水性や耐水圧性能が高い軽量かつ強度が高く、汚れが付きにくい |
| SF,SFS(多孔質フィルムラミネート不織布) | 不織布に微細な孔を持つ特殊フィルムを貼り合わせた素材です。 液体や粉じんの侵入を防ぎつつ、水蒸気(汗)を逃がす透湿性を持ちます。 防護性能と快適性(蒸れにくさ)を両立しています。 |
通気性が高い素材を選べば、作業中の熱ストレスや不快感を軽減しやすくなります。
形状
防護服の形状も、有害物質から身を守るために大切な選定ポイントです。例えば、全身を防護するつなぎ型と一部を覆うガウン型では、防護性能が大きく異なります。
つなぎ型は頭から足元までを一体で覆う構造のため、有害物質が服の隙間から侵入するリスクを軽減することが可能です。一方、ガウン型は着脱しやすいのですが、防護性能は比較的低くなります。
適切な防護服を選ぶには、ばく露する部位を覆えるかどうかチェックしましょう。ばく露する部位が全身である場合はつなぎ型、一部に限られる場合はガウンや上下セパレートタイプ、アームカバー、シューズカバーなどを活用しましょう。
快適性
着用中の快適性は、作業効率を左右する重要なポイントです。防護性能に優れた製品を選ぶのはもちろんですが、着心地が悪いと作業中に不快に感じる可能性もあります。
また、作業者の体型に合っていない防護服だと、作業効率が低下するケースもあります。防護性能を第一に考えつつ、可能な限り快適性のある製品を選ぶと良いでしょう。
防護服の正しい着脱方法と注意点
防護服を正しく着脱できていない場合、本来の防護性能が十分発揮されなかったり、脱衣時に皮膚などに有害物質が付着したりする可能性があります。以下で、正しい着脱方法と注意点を把握しましょう。
正しい装着方法
正しい装着方法は、以下の通りです(※)。なお、以下のステップは2名体制で実施しましょう。
| ステップ | 具体的な内容 |
| 1 | 吸汗性に優れたインナーや廃棄可能な長袖・長ズボンを着用する |
| 2 | 防護服を広げ、汚れや損傷がないか確認するインナー手袋には空気を入れ、穴が開いていないか確認する |
| 3 | 靴を脱ぎ、靴下をズボンに被せて履く |
| 4 | 椅子に座って防護服に足を通し、膝下くらいまで引き上げる引き上げたら化学防護長靴を履き、防護服の裾を被せる |
| 5 | 防護服に腕を通し、胸の上までファスナーを閉める(最後まで閉めないこと) |
| 6 | インナー手袋、アウター手袋の順にはめる(※アウター手袋は防護服に被せる) |
| 7 | 介助者に手袋と防護服のつなぎ目をテープで固定してもらう |
| 8 | 呼吸用保護具を装着し、メーカー推奨のシールチェック(密閉されているかのチェック)を実施する |
| 9 | 介助者に防護服のフードを被せてもらい、顎下までファスナーを閉めてもらう |
| 10 | 防護服のファスナーカバーと顎カバーを貼る |
| 11 | 介助者に防護服と呼吸用保護具、ズボンの裾と化学防護長靴の接合部分をテープで固定してもらう(※きつく固定すると動きにくくなるため、突っ張らない程度に固定する) |
| 12 | 介助者が問題ないか確認したら装着完了 |
このように、ただ着用するのではなく、隙間から有害物質が侵入しないように必要に応じてテーピングをする必要があります。問題がないか2名体制で確認しながら装着しましょう。
※参考:厚生労働省.「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル」.”第2項 使用時の留意点”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001393159.pdf ,(参照2025-05-17)
正しい脱衣方法
脱衣時も、装着時と同じく2名体制で行いましょう。防護服に有害物質が付着している、もしくは付着している可能性がある場合は、介助者も呼吸保護具を装着する必要があります。
具体的なステップは、以下の通りです(※)。
| ステップ | 具体的な内容 |
| 1 | 脱衣前に除染する |
| 2 | 介助者に装着時に固定したテーピングを外してもらう |
| 3 | アウター手袋の裾口をつまみ、裏返しながら外す |
| 4 | 介助者にヘルメットを外してもらう周辺のテーピングを外すマスクは専用の廃棄箱に処分する |
| 5 | 顎カバーとファスナーカバーを外す |
| 6 | 防護服のファスナーを下げ、フードを外す(※フードが皮膚や髪に触れないように注意する) |
| 7 | 立った状態で、防護服を丸め込むようにしながら膝下まで脱ぐ(※インナー手袋で肌着やインナーに触れないように注意する) |
| 8 | 呼吸用保護具をメーカー推奨の手順で外す |
| 9 | インナー手袋の裾口をつまみ、裏返しながら外す |
| 10 | ヘアキャップを外し、専用の廃棄箱に処分する |
| 11 | 手と顔を洗い、うがいをしたら脱衣完了 |
防護服を脱ぐ際は、表面に付着した有害物質が体に付着しないように裏返しながら脱ぐなど注意しましょう。
また、防護服は産業廃棄物として処分しなければなりません。国や自治体の指示に従って処理しましょう。
※参考:厚生労働省.「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル」.”第3項 使用後の留意点””第2項 廃棄時の留意点”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001393159.pdf ,(参照2025-05-17)
リスクに応じた適切なレベルの防護服を選んで安全確保を
防護服のレベルやタイプを把握することで、作業環境に応じた適切な保護具を検討しやすくなります。まずはリスクアセスメントを実施し、作業環境やばく露の可能性、通気性、快適性などを考慮した上で、適切な防護服を選びましょう。
原田産業株式会社では、JIS T 8115に準拠した防護服を豊富に取り扱っています。安全性はもちろん、快適性にも配慮して独自の新製品を開発しています。作業内容やリスクレベルに応じた製品選びにお悩みの事業者さまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。