防護服・防護製品なら原田産業 お役立ち情報 【労働安全衛生法】化学物質規制を徹底解説! リスクアセスメント・SDS・法改正のポイント
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【労働安全衛生法】化学物質規制を徹底解説! リスクアセスメント・SDS・法改正のポイント

労働安全衛生法は社会状況に合わせて何度か改正されているため、化学物質を扱う現場では「具体的にどのようなルールがあるのか分からない」と悩む場合も多いのではないでしょうか。化学物質の規制について理解しておけば、現場に応じた適切な措置を検討しやすくなります。

本記事では、労働安全衛生法に基づく化学物質の規制や事業者に求められる義務などを分かりやすく解説します。

なぜ化学物質管理が重要? 労働安全衛生法における位置づけ

化学物質を扱う作業現場では、労働者が安全かつ衛生的に業務を遂行できるよう、管理を徹底する必要があります。化学物質が原因で発生した労働災害は毎年450件程度で推移しており、がんなどの遅発性疾病も後を絶ちません(※)。

このような状況を受けて、労働安全衛生法では化学物質規制をはじめとするさまざまな規制を行っています。多発している化学物質が原因の健康被害を少しでも減らすには、事業者による主体的な管理体制の強化が不可欠です。

※参考:厚生労働省.「労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」.https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000945523.pdf ,(参照2025-05-18).

対象となる化学物質とは? ラベル表示・SDS交付義務

有害性のある化学物質を扱う、もしくはその物質を外部に提供・譲渡する事業者は、危険性を正しく伝えるためのラベル表示やSDS交付が義務づけられています。

有害物質へのラベル表示義務

労働安全衛生法第57条では、有害性のある化学物質を取り扱う事業者に対して、物質の名称や注意点を記載したラベルの表示を義務づけています(※1)。ラベルの仕様は、国際的に広く使われているGHSに基づいた情報を表示することが推奨されています。

記載すべき主な項目は以下の通りです(※2)。

  • 化学物質の名称
  • 「注意」「危険」などの注意喚起語
  • どのような危険性があるのかを示す絵表示
  • 爆発性や引火性などの危険有害性の内容
  • 使用方法や応急処置・保管方法などの注意書き
  • 提供元となる事業者の名称・住所・電話番号など
  • その他必要に応じた補足情報

これらの情報を明記することで、現場の労働者が危険性を正しく理解し、事故や健康被害の防止につなげられます。ラベル表示対象の物質一覧は、労働安全衛生総合研究所のホームページからダウンロードできます。

※1参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.”第五十七条”.https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057#Mp-Ch_5-Se_2-At_57 ,(参照2025-05-18).

※2参考:職場の化学物質管理総合サイト.「4-2.ラベル表示、SDS交付」.”ラベル表示”.https://cheminfo.johas.go.jp/step/4-2.html ,(参照2025–05-18).

SDS(安全データシート)交付義務

労働安全衛生法第57条第2項では、有害性のある化学物質を外部に譲渡・提供する場合、SDS(安全データシート)を交付しなければならないと明記されています(※1)。

SDSとは、それぞれの化学物質の危険性や有害性、取り扱い上の注意事項などを記載したシートです。基本的には、国内規格のJIS Z 7253:2019に基づいて作成するのが望ましいとされています(※2)。

SDSは、提供先の承諾がなくても文書やメール、FAX、二次元コードなどで交付可能です(※3)。対象物質一覧は、ラベル表示と同様、労働安全衛生総合研究所のWebサイトからダウンロードできます。

※1参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.”第五十七条第二項”.https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057#Mp-Ch_5-Se_2-At_57_2 ,(参照2025-05-18).

※2 参考:職場の化学物質管理総合サイト.「4-2.ラベル表示、SDS交付」.”SDSの作成・提供”.https://cheminfo.johas.go.jp/step/4-2.html ,(参照2025–05-18).

※3 参考:厚生労働省.「労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」.”3-1 SDS等による通知方法の柔軟化”https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000945523.pdf ,(参照2025-05-18).

化学物質から身を守るために|事業者が取り組むべき対策とは

化学物質のばく露を防止するには、事業者が取り組むべき対策を理解する必要があります。代表的な対策は、保護具の着用と化学物質管理者の選任です。以下で詳しく見ていきましょう。

ばく露の危険性が高い作業場では保護具を着用する

ばく露の危険性が高い作業場では、保護具を着用しましょう。適切に保護していない場合、化学物質が呼吸や皮膚、眼などを通じて体内に侵入し、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

2024年4月1日から、皮膚や眼に健康被害を及ぼす恐れのある化学物質を扱う作業において、不浸透性の保護具着用が義務化されました。また、皮膚から人体に入り込む危険性がある物質を扱う際にも、保護具を着用することが定められています(※1)。

なお、危険性を及ぼす恐れがあるか明確でない物質を扱う場合、着用は努力義務となっています(※2)。しかし、可能な限り保護具を着用して健康被害を防ぐことが大切です。

※1 参考:厚生労働省.「皮膚等障害化学物質等の製造・取り扱い時に「不浸透性*の保護具の使用」が義務化されます」.”Q:皮膚等障害化学物質とはどのような物質ですか?”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001216818.pdf ,(参照2025-05-18).

※2 参考:厚生労働省.「労働安全衛生法の新たな化学物質 規制労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」.”1-3 皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000987253.pdf ,(参照2025-05-18).

化学物質管理者を選任する

リスクアセスメントの対象となっている化学物質を製造・取り扱い・譲渡する事業場では、化学物質管理者を選任しなければなりません(※1)。企業規模に関係なく、該当する物質を扱っていれば選任する必要があります。

化学物質管理者の代表的な業務は、以下の通りです(※2)。

  • ラベルやSDSが適切に表示・交付されているかの確認
  • リスクアセスメントの実施・記録管理
  • 対象物質が原因で発生した労働災害への対応
  • 必要な措置やリスク低減策の立案・実行
  • 化学物質を扱う労働者への教育・指導

管理者に選任されるには、中央労働災害防止協会や日本規格協会などが実施する講習を受講する必要があります。リスクアセスメント対象の化学物質を扱っていない事業場では、講習を受けずに選任できますが、安全確保のためにも受けた方が良いでしょう。

※1参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生規則」.”第十二条の五”.https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032#Mp-Pa_1-Ch_2-Se_3_3 ,(参照2025-05-18).

※2 参考:厚生労働省.「労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」.”2-1 化学物質管理者の選任の義務化”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000987253.pdf ,(参照2025-05-18).

リスクアセスメントの実施義務とその進め方

事業者は、労働者の安全と健康を守るために化学物質に関するリスクアセスメントを実施する必要があります。以下で、詳しい内容と進め方を見ていきましょう。

事業者が実施すべきこと

事業者が取り組むべきなのは、対象化学物質によるばく露の濃度を可能な限り低減することです。具体的な対策は、以下の通りです(※)。

  • 有害性が低い物質に変更する
  • 物質を密閉できる装置や換気設備の導入を検討する
  • 作業方法や手順を見直す
  • 呼吸用保護具の導入を検討する

有害性が高い物質を代替できるようであれば、まずは健康への影響が少ない物質への変更を検討しましょう。また、化学物質が空気中に散漫しないように設備を整えるのも大切なポイントです。

また、リスクアセスメントの対象物質の中には「ここまでの濃度なら健康被害が出にくい」と国が基準を定めているものがあります。該当する物質を使用している場合は、その基準値を超えないように濃度を調整しましょう(※)。

※参考:厚生労働省.「労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」.”(1)労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000987253.pdf ,(参照2025-05-18).

労働者のばく露状況の意見聴取や記録・保存も実施すべき

事業者は、化学物質のばく露を減らすために行った対策や実際のばく露状況について、労働者に意見聴取しなければなりません。聴取内容は記録してまとめ、3年間保存する必要があります。ただし、国が定めるがん原性物質を取り扱っている場合、30年間保存しなければなりません(※)。

※参考:厚生労働省.「労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」.”(2)(1)に基づく措置の内容と労働者のばく露の状況についての労働者の意見聴取、記録作成・保存”.https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000987253.pdf ,(参照2025-05-18).

リスクアセスメントの進め方

リスクアセスメントは、以下の流れで進めます(※)。

  1. 使用する化学物質の危険性・有毒性を特定する
  2. 1で特定した物質の健康被害や危険のリスクを見積もる
  3. リスク低減措置の検討・実施する
  4. 労働者に実施結果を周知する

※参考:厚生労働省.「労働災害を防止するためリスクアセスメントを実施しましょう」.”3.リスクアセスメントの流れ”.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000099625.pdf ,(参照2025-05-18).

1.使用する化学物質の危険性・有毒性を特定する

まずは、現場で使用している化学物質の危険性・有毒性を特定します。特定する際は、ラベルやSDSを活用しましょう。SDSの「危険有害性の要約(GHS分類)」や「ばく露防止及び保護措置」「適用法令」は、危険性・有害性を特定する上で特に参考になる箇所です。危険有害性を表現した絵表示も参考にしましょう。

2.1で特定した物質の健康被害や危険のリスクを見積もる

次に、ステップ1で特定した化学物質がどのくらいのリスクを持っているのかを、危険性と有毒性の両面から見積もります。見積もりにはいくつかの方法がありますが、厚生労働省が提供する「CREATE-SIMPLE(クリエイトシンプル)」を活用するとスムーズです。

CREATE-SIMPLEは、選択式の質問に回答するだけで化学物質のリスクの大きさを見積もれるツールです(※1)。専門知識がない方でも使用できるため、複雑なリスクの見積もりを効率的に進められます。

その他の見積もり方法は、厚生労働省の資料で解説されているため、併せてご確認ください(※2)。

※1参考:職場のあんぜんサイト.「CREATE-SIMPLE」.https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_3.htm ,(参照2025-05-18).

※2 参考:厚生労働省.「労働災害を防止するためリスクアセスメントを実施しましょう」.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000099625.pdf ,(参照2025-05-18).

3.リスク低減措置の検討・実施する

次は、見積もったリスクをどう減らすか検討する段階に入ります。リスクが高いと判断された作業や化学物質に関しては、優先的に対策を講じる必要があります。

具体的な優先順位は、以下の通りです。

優先順位具体的な対策・措置の例
1.リスクの低い方法への切り替え有害性の低い物質に変更する化学反応のプロセスを見直す など
2.設備による対策密閉装置や安全装置などを導入する換気設備を導入し、空気中に物質が広がらないようする など
3.作業手順や管理体制の見直し作業方法を改善する立入禁止区域を設ける など
4.保護具の使用化学物質の性質に応じた適切な保護具を使用する など

上表のように、まずはリスクが低い方法に変更できないかを検討し、順次設備や作業手順などを見直す流れです。

具体的な措置を検討したら、実際に作業現場で実施します。実施後は効果を確認し、必要に応じて改善を加えながら、安全な環境を整備しましょう。

4.労働者に実施結果を周知する

リスク低減措置の実施結果は、労働者に周知しましょう。対策を講じても、その内容を労働者が知らなければ、リスクの低減につながりません。

周知方法は、以下のいずれかの手段を選択しましょう。

  • 作業場の見やすい場所に書面を掲示する
  • 労働者に書面を配布する
  • パソコンなどに保存していつでも閲覧できるようにする

安全かつ衛生的な作業場を構築するためにも、適切な方法で周知しましょう。

労働者への化学物質に関する教育義務

事業者は化学物質を扱う労働者に対し、その危険性や取り扱い方法に関する教育を実施する義務があります。労働安全衛生法第59条から第60条第2項にかけて、労働者の状況に応じた化学物質に関する教育を実施すべきと定められています。

条文の内容は、以下の通りです(※1)。

  • 第59条:新たに労働者を雇い入れた際は、化学物質の適切な取り扱い方法について教育を行わなければならない
  • 第60条:新たな職に就くことになった職長、もしくは指導者・現場責任者にも必要な教育を行う必要がある(労働者の配置・指導・監督方法など)
  • 第60条第2項:労働安全や衛生の向上を図るため、必要に応じて教育を実施しなければならない

このように、労働者の立場や職務の変化に応じて適切なタイミングで教育を行うことで、現場の安全や衛生向上につながります。

なお、第60条で定められている教育実施の義務は、製造業や建設業などの特定の業種のみです。2023年4月1日からは、食料品製造業・新聞業・出版業・製本業および印刷物加工業も対象に追加されています(※2)。

※1参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」.”第五十九条””第六十条””第六十条の二”.https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057#Mp-Ch_6 ,(参照2025-05-18).

※2参考:厚生労働省.「職長等教育の対象業種が拡大となり、義務化されました!」.https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/001774072.pdf ,(参照2025-05-18).

近年の法改正動向|自律的な管理への移行

化学物質関連の法改正は、近年段階的に実施されています。健康被害を防ぐには、事前にリスクを把握し、必要な対策を自律的に講じる必要があります。

2026年に予定されている法改正の内容を確認し、現場で適切な対応ができるよう備えておきましょう。

【2026年1月】石綿障害予防規則が改正される

2026年1月から、石綿障害予防規則が一部改正されます。石綿障害予防規則とは、石綿(アスベスト)による健康被害を防ぐために制定された法律です。

アスベストが使われている可能性が高い建物や船、工作物を解体する際は、あらかじめアスベストの有無を調査する必要があります。現時点で事前調査を実施できる人の要件は、建物や船の解体に限って定められています。

2026年1月からは、工作物の解体でも事前調査する人の要件が定められることになりました。さらに、調査した人の名前や要件を満たしている旨が記載されている書類の写しを、調査の終了日から3年間保存することが義務づけられます(※)。

※参考:厚生労働省 千葉労働局.「【石綿】工作物の解体等に係る事前調査者について(令和8年1月1日施行)」.https://jsite.mhlw.go.jp/chiba-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/isiwata.kosakubutsu_zizentyosa.html ,(参照2025-05-18).

【2026年4月】ラベル表示・SDS通知対象物質が追加される

2026年4月から、有害な化学物質のラベル表示・SDS通知の対象となる物質が約850種類追加されます(※1)。前半で解説した通り、健康被害の恐れがある化学物質を取り扱う際は、ラベルやSDSで危険性や注意点を明示しなければなりません。

既に2024年4月と2025年4月に2回にわたって対象物質が追加されており、今回が3回目の拡大です。追加された約850物質は、リスクアセスメントの対象にもなるため、事業者は適切な措置や対策を講じる必要があります。

対象物質は、労働安全衛生総合研究所のWebサイトで確認可能です。対応が遅れないよう、早めに準備を進めておきましょう(※2)。

※1 参考:厚生労働省.「新たな化学物質規制が 導入されます」.”ラベル・SDS通知、リスクアセスメント対象物質が大幅に増加します”.https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/001277415.pdf ,(参照2025-05-18).

※2参考:労働安全衛生総合研究所.「化学物質の管理が変わりました!」.https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/ghs/arikataken_report.html ,(参照2025-05-18).

【2026年7月】新規化学物質関連の電子化申請が義務化される

2026年7月からは、新規化学物質関連の電子化申請が義務化されます。具体的には、以下の申請が対象です(※)。

  • 新規化学物質の名称・有害性の調査結果の届出
  • 新規化学物質に労働者がばく露するリスクがないことを証明する申請、およびその変更届
  • 新規化学物質の有害性がない旨の申請
  • 少量新規化学物質の製造や輸入に関わる申請

電子申請の受付は2025年1月から開始されており、現在は郵送または電子のいずれかを選択可能です。2026年7月からは、厚生労働省の「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の電子申請について」に記載のリンクから申請する必要があります。

※参考:厚生労働省.「労働安全衛生法に基づく新規化学物質の電子申請について」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei06/01h_00003.html ,(参照2025-05-18).

化学物質のリスクを理解し、適切な管理体制を構築しよう

化学物質を取り扱う現場では、物質によるリスクを正しく理解し、法令に沿った管理体制を整える必要があります。リスクアセスメントの実施やSDSの交付、ラベル表示の徹底は、現場での事故や健康被害を防ぐために欠かせない取り組みです。作業の安全を確保するためにも、職場全体でリスクに向き合う体制を構築していきましょう。